*連鎖する、夢*


 いらない命。
 必要ない命。
 だから棄てられた。
 水に投げ込まれた。
 だったら如何して産んだの?
 何故確実に殺さなかったの?
 僕が生まれた意味は、何?
 僕が生きてる理由は、何?


 沈んでいく。
 沈んでいく。深い、深い、水の中。
 暗い、暗い、水の中、奥深くへと。
 こぽこぽ、こぽこぽ、呼吸が泡になって消えていく。
 死にたくない。死にたくない。僕は、こんな暗闇で一人………
 何をしたって、何を殺したって、僕は、死にたくない。
 だから………
 蛇。
 喰らって、喰らいつくして、全ての臓腑を内腑に収めて、僕は死なない力を得る。
 皮を脱ぎ、新しい生命を得る、蛇のように。
 千切れていく腕。?がれていく足。折れ曲がる首。喰って喰われて殺されて。
 ぽちゃん。
 ああ、結局僕は死ぬ。
 喰らったはずの蛇に喰らわれて、最後に全てを失って。
 僕はどうして生まれたの?
 僕はどうして生きてるの?
 全てが無くなってもまだ残る。
 この双つの眼球に。
 鮮やかに色伴って映るのは。
 貴方。


 大きく見開いた眼。
「大丈夫?」
 聞こえてきた声に、瞬きして焦点を合わせれば、そこには、綺麗な、綺麗な、紫色。禍々しく、美しい、至高の宝石。
「おめでとう」
 何が、御目出度いのだろう。一体、何が………
「ロロ」
 ぴくん、と耳が動いた。軽やかに響く、鈴のような音。
 たった二つの同じ文字の重なりが、甘美な麻薬のように、耳内へと滑り込み、脳内を侵していく。
「とても綺麗な命だね、ロロ」
「………ロ、ロ………?」
「そう。それが名前だ、君の。ロロ」
「僕、は、ロロ?」
「そうだよ、ロロ」
 にっこりと微笑んだその人は、綺麗で、綺麗で………満月だったその月夜の白い月よりもなお白く、狂ったように咲いて風に散る桜よりもなお赤く、周囲を染める夜闇よりもなお、黒かった。
「あなた、は?」
「ルルーシュ」
「ル、ルーシュ」
 至上の、名前。


 全身を、麻薬で汚染された肉体。その白い肌に触れて、そっと額を押し付けてみる。
 温かかった。まだ、生きている。そのことに安堵して深く息を吐き出して、額を離す。
「貴方を、こんな風にしたのは、誰?」
 僕の、神様。
 僕の、大事な主。
 ルルーシュ。
「僕が、貴方を苦しめるもの全部、壊して殺してあげる」
 ふうっ、と瞼が上がり、隠れていた紫色の瞳が覗く。
「………ロ、ロ?」
「うん。僕だよ、ルルーシュ」
「どう、したんだ?」
「貴方がずっと、眠ってるって聞いて、心配になって………」
「優しいな、ロロは」
「そ、そう?」
「うん。兄様と、全然違う」
 にっこりと微笑んだ顔が、どろりと溶ける。どこからからか這い出てきた無数の蛇が、その体へとむしゃぶりつくように飛び掛る。
「や、やめろ!」
 ぐじゅぐじゅと溶けていくその体は跡形もなくなり、獲物を失った蛇達が、ロロの体に狙いを定めて牙を向く。
 何で………如何して………
 疑問の向こう側で穏やかに微笑む、少女の笑顔。
『だって、私を貴方が喰べたじゃないの』
 無垢で酷薄な笑顔が、そこにはあった。


 目覚めたそこが現実であることを確かめるように、体を起して手を握り、足を動かす。頭を振って髪の感触を確かめ、眼球に飛び込んでくる半月の光を、確かめた。
 一つの悪夢が、もう一つの悪夢を呼び、その悪夢が、また別の悪夢を呼ぶ。繰り返し、繰り返し、終わることのない悪夢。
「ルルーシュ………」
 誰より会いたい人の名前を呟いて、拳を握る。
 名前をくれた、大事なあの人。いらなくなって棄てられた命を綺麗だと言ってくれた、神様。
 ああ、今あの人に会えたなら、この悪夢も全て忘れて、きっと幸せな夢に浸る事が出来るのに。
 どうして、あの人は側にいないのだろう。また、大好きな兄の所にいるのだろうか。
「大嫌い、だ、あんな奴………」
 自分とあの人との仲を裂く、金髪の悪魔。あの人の体を麻薬漬けにして、玩んでいる天使。
「いつか、殺してやる。壊してやる」
 そうすれば、そうすれば、きっと………
 あの人は、自分だけのものになってくれる。いつか必ず、自分にもう一度笑いかけて、この悪夢から救ってくれる。
 そのためなら、何だって、する。
 この身が血に汚れようとも、構わない。








pariba様リクエスト、『ZONE-00』パロで、ロロ(月彦)悪夢ネタ、です。
病んでるなぁ、ロロ…とか、書きながら思ってました。
でも、そんなロロが個人的には大好物です。
月彦も病んでると思うので、とても似通っているような気が。
いかがでしょうか?




2008/12/30初出
         
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