シブヤ狩猟日記〜堕天使達の憂鬱

プロローグ〈1〉
 
 空にはぽっかりと大きな月が浮かんでいる。それを見上げながら、トレーニングウエア姿の少年は軽くため息をついた。年の頃は14、5歳だろう。武道で鍛えているのか、細身ながら程よく筋肉のついた均整の取れた肉体を持つ少年だ。ランニングの途中らしく、その肩は上下し、やや息があがっている。
「すげえ。血の色みたいだなぁ・・・」
 公園を通り抜けながら首から下げていたタオルで汗を拭い独りごちると、それに答える様に、足元から「にゃ〜ん」と声がした。
「お、月島(つきしま)、おかえり。最後のパトロールは異常なしか?」
 少年が視線を落とすと、一匹の三毛猫が彼の足元にすり寄る。少年はいとおしげに猫を胸に抱きかかえた。
「見てみろよ、月島。まるでなんかの予兆みたいだろ?」
 紅い月を見上げながら、少年はそう呟く。どうやら猫の名は月島というらしい。少年は月島の頭を優しくなでながら、笑みを浮かべた。まるでヤンチャなガキ大将が楽しい悪戯を思いついたかのような笑顔。
「なんかワクワクしてきた。東京に行くのが楽しみになってきたなぁ・・・」
 その口元はゆるんでいる。思春期の少年らしくない不敵な笑みだ。まるでそれをたしなめる様に、月島は低い声で鳴いた。
「はいはい、わかってるよ。もう、月島はそういう所が姉ちゃんみたいだよなぁ。どれ、姉ちゃんがハラ減らしてイライラしてるな、そろそろ帰るか」
 そう言って月島の後頭部に顎を寄せると、少年は足早に歩き出す。上空からは異様なまでに鮮やかな赤い月が少年と猫を見下ろしていた。





 

とりあえずのプロローグ〈1〉。続き、登場人物紹介など徐々に更新していく予定です。あくまで、予定ですが・・・(苦笑)。

更新日:
2008/12/17(水)